誰もが知る閉店BGMが誕生して浸透するまで
商業施設の閉店BGMとして広く知られている「別れのワルツ」と、その曲名として勘違いされている「蛍の光」は、実は別の楽曲です。この2曲はともに同じ原曲からアレンジされて生まれた曲であり、別々の歴史をたどった上でどちらも日本に浸透しました。原曲が同じであるため、「別れのワルツ」と「蛍の光」は混同されるようになったのだと考えられています。
原曲は、イギリス北部のスコットランドに伝わる民謡「オールド・ラング・サイン」。離れていた旧友との再会を喜ぶ内容で、別れを惜しみ、次にまた再会できることを願って歌われます。昔から歌われていたこの歌をスコットランドの詩人がアレンジしたものが有名で、このメロディは日本をはじめ世界中に広まっています。
「蛍の光」
「オールド・ラング・サイン」のメロディに日本語の歌詞をつけたのが「蛍の光」です。海軍の学校の卒業式で歌われたのが最初だと言われています。そのことから「別れの曲」のイメージが定着し、小学校などの卒業式でも広く歌われるように。卒業式で歌ったことがある、あるいは歌ってもらったことがあるという方も多いのではないでしょうか。
「別れのワルツ」
一方、「別れのワルツ」は一度アメリカを通って日本にやってきた楽曲で、1949年に日本公開された映画『哀愁』で使われていたのが始まり。主人公と恋人が「オールド・ラング・サイン」に合わせて踊るシーンがあり、映画のヒットに合わせてダンスシーンのBGMも話題になりました。ただしこの映画で流れていた「オールド・ラング・サイン」は、映画のために4分の4拍子から4分の3拍子に編曲されたもので、原曲とはリズムの取り方が異なります。ダンスシーンが閉店間際のシーンだったこともあり、有線放送などで採用されるようになって「閉店のBGM」として定着することとなりました。「別れのワルツ」という曲名は、日本でレコード化する際につけられたものです。
「別れのワルツ」を聞いて帰りたくなるのはなぜか?
店舗で「別れのワルツ」が流れると、「もう閉まるから帰らなければ」と閉店時間を気にするようになります。閉店のアナウンスがなくてもそう感じるのはなぜでしょうか。
ひとつは、「別れのワルツ」が閉店BGMとして根強く浸透していることがあげられます。「別れのワルツ」が流れてから5分~10分程度で閉店する、「別れのワルツ」と一緒に閉店のアナウンスが流れるというシーンに何度か居合わせると、「別れのワルツ」=閉店という条件反射を体が覚えるのです。
もうひとつ、「別れのワルツ」の拍数が関係していることも考えられます。「別れのワルツ」は3拍子であり、ほとんどが4拍子の日本の音楽ではなかなか出会わないリズム。「別れのワルツ」はゆったりとした曲ですが、3拍子であることで違和感を覚えてじっとしていられなくなるのかもしれません。
もちろん、「蛍の光」だと勘違いされていることも印象づけに一役買っていると言えます。卒業式などで歌われる「蛍の光」は別れのイメージが強く、そう思って「別れのワルツ」を聞くことで自然と別れ(閉店)の空気を感じるのです。
閉店BGMとして「別れのワルツ」を流すメリット
多くの商業施設で閉店BGMとして採用されている「別れのワルツ」ですが、この楽曲を使用することにどのようなメリットがあるでしょうか。
ひとつは、すでに広く浸透しているBGMであるためにスムーズに退店をうながせるというメリットがあります。お客様は「別れのワルツ」が流れることで閉店時間が近いことを知り、特別なアナウンスがなくても自然と急ぎ足になります。
お客様に不快な思いをさせにくい、というメリットもあります。アナウンスのみで閉店を知らされたりまだ商品を見ている最中に片付けを始められたりすると、お客様に不快感を与えてしまうことも。「別れのワルツ」であれば自然と閉店の雰囲気を演出できるので、無用な感情のすれ違いを避けることが可能です。
みんなが知っているBGMを活用しよう
閉店のBGMとして広く知られている「蛍の光」は、実は「別れのワルツ」という原曲を同じにする別の楽曲でした。その歴史をたどってみると、「蛍の光」や「別れのワルツ」がより身近なものに感じられるのではないでしょうか。日本人の耳によく定着している「別れのワルツ」は自然と閉店の雰囲気を作ることができるため、閉店前のBGMとしてぴったりです。
音楽配信サービス「OTORAKU -音・楽-」では、「別れのワルツ」をはじめとした閉店用のBGMを流せるプレイリストを公開しています。閉店用のプレイリストは、カテゴリの「ショップ・ツール」の中から検索可能。「別れのワルツ」以外には、ドヴォルザークの「家路」や日本語・英語の両方で流せるアナウンスなどが収録されています。お客様に不快な思いをさせず、スムーズに閉店作業を行えるよう、ぜひ活用してみてください。